タイピングハイ! さみしがりやのイロハ


著者:長森浩平/イラスト:橘りうた
発行:角川スニーカー文庫角川書店
ISBN:4044709017
評価:★★★

第9回スニーカー大賞<優秀賞>受賞作
ウェーブ髪をなびかせて高飛車な態度のウェービーさん、周囲になごみ光線をまき散らすニアなど、名門校ローズフィートを彩る美少女軍団の中でも特に正体不明、常にゴーグルで素顔を隠した生徒会長になぜか気に入られたオレが、彼女から頼まれた人捜しの相手って……白昼堂々ぱんつ姿で泣いていた、あの縞ぱんちゃんですか? 近未来の学園で巻き起こるHigh&Lowテンションストーリー!

Lain」?ネットアイドルの辺りでそう思ってしまったがために、ラストは割と報われないのだがあまり嫌な読了感は受けなかった。キャラは結構生きているのは好感。人間の相手をするよりコンピュータの相手をしている方が楽な主人公、かなりドライな性格をしていて、(良い意味で)ストーリを淡々と進めてくれる。サブキャラに萌え系のわずらわしそうなキャラが多い分、主人公の自称友達シン・カザマが一番キャラが立っていたと感じた。話が縞ぱんちゃん&失踪したネットアイドル天地イロハの謎と、ウェービーさんとのAIの育成の2つに分離してしまっている。それぞれがあまりかみ合っていないため、またラストで突然知らないキャラの存在を提示されるため、綺麗にまとまらなかったのは残念。やはり縞ぱんちゃんの退場は早すぎるだろう。あと、表紙にヒロイン3人がそろっているが、本編中では3人が同時に顔を合わせることはない罠が。正直ニアは蛇足だと思う。鍵の壊れた部屋で見る夢さんの感想で気づかされたが、確かに主人公はシン・カザマ以外は外見的特長でのみ、相手を認識している。このことに、相手を自分と同等のものと扱わず、相手の行動に関心を持たないという意味が持たせてあるなら、これはかなり面白い手法だ。

昔読んだ作品でちょうど今作と真逆のストーリーとなる作品を思い出したので、紹介しておきます。
「プリズム」(神林長平ハヤカワ文庫JA*1の1章となる「ペンタグラム」である。この主人公の少年は全てがコンピュータに管理された世界に生きながら、コンピュータに全くアクセスすることが出来ず、またコンピュータも少年を認識することが出来ないため、社会的恩恵(教育や福祉、医療や自販機でジュースを買うことすら)を受けることができない。少年はこの生きてゆくことすら難しい世界から出て行くためあがく。といったストーリーですが、面白いのはこの「プリズム」、キャラの固有名詞がほとんど出てこないことにあります。主人公はずっと「少年」としか描かれず、少年の家族も「父親」「母親」「兄」、他の話でも「刑事」「刑事の妻」などとキャラ同士の続柄だけでキャラを現すという手法が使われています。このことにより、それぞれのキャラは普通の存在として(決して超能力など持たない)描かれ、逆に異質な考えをもったり、特殊能力を持つものに対しては名前が付けられています。この辺は結構珍しいかと思うんで、未読の方は一度読んでみてはいかがでしょうか。

*1:ISBN:4150302278