復活の地3


著者:小川一水/イラスト:前嶋重機
発行:ハヤカワ文庫JA(早川書房
ISBN:4150307709
評価:★★★★☆

 皇権排除を画策するサイテン首相は、スミルらを襲った大規模余震を機に国家権力を掌握、星外進出を見据えた軍備増強を推進していく。いっぽうセイオのもとには、100日後の第二次震災発生という衝撃の情報がもたらされる。復興院総裁という権力を失った彼が、“予知された災害”に対して講じた方策とは? そして、迫りくる国家崩壊の危機に、摂政スミルがくだす最後の決断とは?――未曾有の国家再生ドラマ、全3巻完結

いやー、面白かった。最近の小川一水作品はデウス・エクス・マキナなモノが多かったが、今作は綺麗にまとまっていたと思う。2回目の震災では、人々が助かる向きもあってやや迫力に欠けたが、その分政治的な駆け引きが前面に出て、緊張感は失われず、スムーズに読めた。全体を通してみると、既刊の「追伸・こちら特別配達課」*1に近く、久しぶりにストーリー全体を楽しめる作品だと思う。
また今巻ではわずかながら障害者に対しての言葉があり、好感。障害者は特定のことに対し、決して出来ないのではなく、実行に困難を伴うだけであると思う。ネーリは自分の足で歩けないが、車椅子を利用することで困難はあるが、一人でも移動することは出来る。ただ哀れむのではなく、同等の人間として扱って欲しいと当HP管理人は常に思っている(蛇足ながら、この手のテーマで障害を乗り越え、自立に最も成功したキャラとして、ゲーム「ONE」に出てくる”上月澪”を挙げておく)。
欠点を挙げるなら、ナウラの描写の足りなさか。セイオはナウラのことできわめて強い怒りを持っているのだが、ナウラ(とセイオ)の描写がないため、その怒りが全く伝わってこない点が残念。また、ラストで綺麗にまとめてるが、スミルの退位で間違いなくレンカは内乱に陥るだろう。廃位のため、高皇とて平民と同じというイメージを出しても、最後の最後で大活躍では、明らかに高皇派が出てくるだろうし。

なんにせよ、隔月間という短い期間で、これだけ濃密な長編を生み出してくれたことに感謝。次の作品にも期待。

*1:ISBN:4257769467