約束の柱、落日の女王


著者:いわなぎ一葉/イラスト:AKIRA
発行:富士見ファンタジア文庫富士見書房
ISBN:4829116439
評価:★★★★

「私を裏切ったとは、思わぬ」
 すべてを知っても、そう言って微笑もうとするクリムをカルロは抱き寄せる。「君を残していくことはしない」
 迫る隣国の脅威、私欲しかない家臣たち。危機感を覚えても、どうすることもできず孤立する若きシュラトス王国女王クリムエラの前に、一人の戦士が現れる。
 カルロと名乗り、政治、軍事と鮮やかな手並みを見せるその男は、短い間にクリムの中で、大切な存在となってゆく。……だが、彼にはある秘密が……
 そして、そのために二人は同じ道を歩めないはずだった。それでも、クリムとカルロは誓う――「どんな刻も、一緒に生きる」と。約束を果たすため、彼らの”運命”との闘いが始まる! 第16回ファンタジア長編小説大賞準入選受賞のピュア・ラブストーリー。ひとつの出会いが、刻を超え世界を変えてゆく――。

第16回ファンタジア長編小説大賞準入選受賞作。
いや、面白かった。奇にてらわれず、ストレートなストーリー展開が素晴らしい。貴種流離譚の王道バンザイ。

最近見られなくなった、純然たるヒロイックファンタジー。
何かしなければ国が滅ぶと理解している小さな女王クリムエラ。しかし貴族達の専横のため、権威はあるが実権を持たず、国の今後を憂うのみ。
一方、幼い頃から傑出した才能を現す青年カルロ。しかし、その才能ゆえに上役に疎んじられ、自分の手腕を存分に発揮できず悶々と日々を過ごす。

やはり主人公たちが明確な行動理念を持っているため、素直にキャラクター通りに動き、読んでいて引き込まれる。中盤にいくらか端折られた部分が見受けられるが、ストーリーの肝となる部分を重点的に書いてあるので、中だるみはしない。やはりカルロが青年であるのが大きいと思う。単なる特殊能力を持っただけの少年ではなく、才能が有り、加えて現場での実地を踏まえてのカリスマなので、結構納得できた。ただカルロとリーファンの部分が足りないか。
ラストは、自分にとってはやや中途半端な気がする。それまでの苦悩を考えると、完全無欠の大団円でもよかったのでは。

ネタバレ

それにしてもリーファンの父の独白は、どこのサスペンスドラマの犯人かと思ってしまった。どうして聞かれていないことまでペラペラしゃべる?おまけに王と王子の殺害理由が娘を活躍させたいから…。親バカにもほどがある。ちょっと本作でいただけない部分だった。
ラストはやはり二人の約束を守って欲しかった。なんだかカルロはすっかりダメになってしまった感じだし。。いっそのこと、カルロが魔術を使ってクリムを2000年後に召還してもよかったんでは。

以上、ネタバレ終了。

最近の電撃的なもの(学園モノ、超能力、萌え重視)な作品は少々飽きてきていたので、こういう骨太のファンタジーを描ける新人が出てきたのは非常にうれしい。ぜひ次の作品もがんばって欲しい。